嘘ごと、愛して。
私は真凛ではない。
そう何度も自答して、言い聞かせているはずなのに、正義の誘いを断れない自分が、一番悪い。
真凛のことも、正義のことも、
平気な顔して裏切っているんだ。
「それと今日はこの間のことを謝りたくて。せっかく見舞いに来てくれたのに、態度悪くてごめん」
「こっちこそ、許可とらずにごめんね」
今日だけ、楽しもう。
そしてもう二度と、正義と出掛けたりしない。
彼の誘いに乗るようなことは絶対にしないと誓うから、今日だけはわがままを許して欲しい。
そう遠くない日、正義との別れる時が来たら
ちゃんと離れられるように、思い出が欲しい。
「いや。姉貴が関わると頭に血が上るんだよね。姉貴は夢を諦めて、仕事をして俺の生活の面倒を見てくれている。俺がいなくなれば姉貴は自由になれるのに、っていつも思ってる」
「…そうなんだね。でもお姉さんがそんな風に思っていないこと、正義も本当は分かってるんでしょ」
お姉さんと会ったのは初めてのようだった。
真凛は正義の家庭の話を聞いてなかったのかな。
だから正義に留年して欲しいと、そんな大切なことを平気で約束できたのだろうか。
少し踏み込んだことを、聞きたい。
正義の力になりたいと思った。
「両親が海外に行く時、俺はわがままで日本に残って。妹の莉奈(りな)だけが付いて行った。もし俺が行ってたら姉貴も日本を離れて好きなことをしていたかもしれないのに」
「どうして?…私との約束を優先してくれたの」
マンションであの日、正義は言っていた。
ーー今更、確認しなくても。アンタは俺に留年して欲しかったんだろう?
ーー大丈夫、あの日の約束は忘れてないよ。
真凛との約束のため、正義は日本に残った。
その約束を、私も知りたい。