嘘ごと、愛して。

ほらね、みんな真凛には甘いんだ。

「裕貴は晴人さんのこと気付かなかったの?」

「仲の良い友達、そう言い切ってたからね。疑うことなく信じてたよ」

「裕貴も意外に馬鹿なんだね」

「同感」


この先は聞かなくても分かる。

真凛に泣いて謝られたりしたら、大抵の男の人は許し、挽回のチャンスを与えるんだ。


「それで今は?」

「ただの幼馴染だよ…隠してて、ごめん」

「裕貴が悪いわけじゃないから平気」


完璧な妹だと誇りに思っていた。
しかしやっていることはその辺にいる少し見た目の良い、自意識過剰な女たちと何も変わらない。


「晴人さんに話すべきだよね」

「…今更?」


あの日記に晴人さんの名前がたくさん出てきても、裕貴とは当たり障りのない幼馴染としての日常しか描かれていなかった。

本命は晴人さんだったのかな。


裕貴は日記をどんな思いで読んだのだろう。


「彼も傷付くはずだ。僕はもう済んだことを打ち明けるつもりはないよ。話して僕が楽になっても、今度は晴人くんが苦しむんだ」


…自分だけが楽になれる。

裕貴の言葉に共感できた。
これ以上、優しい晴人さんを傷付けたくない。
それに今は彼氏彼女じゃないんだ。


「分かった。晴人さんには言わないよ」


「たぶん、それが一番良い道だよね」


頷き合う。
そして馬鹿な私は、正義だけでなく晴人さんにまで隠し事をした。

また嘘を重ねたのだ。


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