沈黙する記憶
好奇心だけで聞いていいことではないと、みんなわかっていた。


だけど、腫れものに触れるようなその対応は、少しだけあたしの胸に突き刺さった。


「千奈、一緒に帰ろうか」


帰りのホームルームが終わり、裕斗がそう声をかけて来た。


「裕斗……」


「1人で帰るの、ちょっときついくないか?」


そう言われて、あたしは素直に頷いた。


夏男が起こした事件は全国ニュースでも取り上げられているため、新学期が始まった今日マスコミ関係者の姿があった。


あの中を1人で帰るのは勇気がいることだった。


「一緒に帰ろう」


裕斗にうながされ、あたしは立ちあがったのだった。
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