浮気の定理
エレベーターに背中をつけて、下を向いていた私は、一瞬誰が入ってきたのかわからなかった。



エレベーターの扉が閉まり、閉ざされた空間で顔を上げた私の目の前に立っていたのは、今一番顔を合わせたくなかった水落本人だった。



「……っ!」



恐怖で声が出なかった。



思いきり罵ってやりたいのに、この男が怖かった。



近づいてくる彼の手を避けるように体を竦める。



でもこの狭い空間ではそれもあっけなくほどかれて、水落は私に顔を近づけてきた。



唇を奪われそうになり、顔を背ける。



そのたびに両手で頬を捕まれて、顔を水落の方に向かされた。
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