浮気の定理
「なんの話だ?」



「……あ……えっと……」



その声色に怯えて、うまく言葉が出てこない。



目を泳がせながら、必死に言葉を探す。



勇は私から視線を外さずにじっと見つめながら、そのままコキッと首を鳴らした。



「まあ、いい。涼子、後できちんと説明しなさい」



それだけ言うと、勇はまたスプーンを口に運んだ。



「……はい」



消え入りそうな声でそう言って、私もスプーンを口に運ぶ。



だけど、もうなんの味もしなかった。



ふと花に目線を移すと、なにも言わずに一生懸命カレーを食べている。



こんなに小さいのに、場の空気を読んでいるんだと、涼子はズキッと胸が痛んだ。
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