淡雪
第十一章
 金吾が黒坂の元に音羽の文を持って行ったのは、次の日になってからだった。

「やはり揚羽は行方不明なのか」

 廓の中にいるのかも、という期待は潰えてしまった。

「まぁ……髪が届いたということは、本人はそこにはいない、と考えるほうが妥当でしょうが」

「無事なんだろうか」

 小槌屋も、難しい顔で黙り込む。
 黒坂は手に持った紙片に、再び視線を落とした。

「しかし、最後のこれは何なんだろう。音羽も外に出られなくなったというのは」

「そうですな。今までの自由がなくなった、ということですか」

 うーむ、と二人で考えていると、表から訪いを告げる物音がした。
 番頭が対応し、すぐに廊下を歩いてくる足音がした。

「旦那様。招き屋さんからの使いだという方がお見えです」

 障子の陰から、番頭が言う。

「ほ、早いの。……お通ししなさい」

 一礼し、番頭が下がっていく。

「どうやら昨日の老爺は外に出られるようですな。いや、老爺しか出られなくなった、というべきか」

「そのようだな」

 程なく、再び廊下を歩く音がし、番頭に連れられた昨夜の老爺が姿を現した。
 廊下に畏まり、頭を下げる。

「よく来てくださった。どうぞ、中へ」

 小槌屋に促され、老爺はおずおずと座敷の中へ入った。
 そして、小槌屋の前まで進むと、またぺこりと頭を下げる。

「あっしは招き屋で下働きをしております、五平(ごへい)ってもんです。花魁より、こちら様に伺うよう申し付けられましたんで」

「ふむ。確かにこちらの旦那は、音羽花魁とは馴染みだが」

 ちら、と小槌屋が黒坂に目をやると、五平と名乗った老爺もそちらを向き、黒坂にも頭を下げた。
 黒坂のことも知っているようだ。

「昨日の今日で訪ねてこられた、ということは、火急の用事あってのこと、ですかな」

 小槌屋の言葉に、五平はこくりと頷いた。

「あっしは長く招き屋におりますもので、花魁のことも昔からよく存じ上げております。それこそ売られてきた頃から知ってますので、黒坂様のことも花魁から聞いております。今日参ったのは、昨日小槌屋の旦那にお渡しした言伝についてで」

「そうであろう。花魁の一の禿がいなくなったとか。実はこちらも、それについて話がしたかったのだ」

 そう言って、小槌屋は再び黒坂に目をやった。
 小槌屋の視線を受けて、黒坂は懐から油紙に包んだ黒髪を出した。
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