散る桜
35


***

忘れられることも、消えてしまうこともできず、彼はあの忌地で一人、何を思っていたのだろう。

わたしは、夜風に揺れる線香の煙をぼんやりと目で追った。


来るなと言われても、わたしは彼に逢いに行った。

彼の隣だけが、唯一の居場所のように思っていたからだ。手を離されたらきっと、一人で立つことさえ、できなかっただろう。


来るなと言っただろう、と言った彼の声は、どことなく嬉しそうに聞こえた。
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