なれたなら。ーさよなら、私の大好きな人ー




朝食の匂い。
ご飯が炊きあがったという機械音。




そして駆けてくる不規則な足音。




「ママ!ママ!」


「夕菜(ゆうな)。走るとご近所さんに迷惑ですよ?」


「…ごめんなさい」




急ブレーキをしてわが子は今日も可愛く肩をすぼめて謝る。




これがもう日常となって5年近く経つ。




味噌汁を煮込んでいた火を止めて、未だにシュンとしている彼女に近づきしゃがんで目線を合わせる。




「それで?そんなに慌ててどうしたの?」




問いかければ待っていましたとばかりに彼女は目を輝かせた。




「パパがね!?おきない!」


「…はぁ。今日という日は起きてもらおうと思ってアラーム仕掛けておいたのに」




彼女が何回も起こしても起きないなんて。
寝起きが悪いのはいつになったら直るんだろう。




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