キライ、じゃないよ。
「……話って何?さっき言っただろ?俺急いでるんだよ」


隣に座ったっきり、急に黙り込んだ田淵を急かす。


「皐月さんに会いに行くの?」

「田淵に関係ないだろ」


つっけんどんな言い方に傷付いたようだった。

鼻をすする田淵に対してどうしても優しくれなかった。

俺の頭の中は、護に会いに行く、ただそれだけのことを考えていた。


「樫くん、やめなよ。皐月さんは、樫くんを裏切ってるんだよ?」

「裏切る?田淵、お前いい加減にしろよ。護を侮辱するな。マジで怒るぞ」

「樫くん……っ、」


深く傷ついたその目から涙が零れ落ちた。

その涙さえ、俺には鬱陶しくて仕方なかった。

昔から俺は多分護以外の人間には冷たいのかもしれない。

優しくしたい相手が既に1人いれば、他はどうしても同じようにはできない。

俺はいつだって、護だけに優しくしたい生き物だったんだと、今更ながらに知る。


「樫くん、酷い。酷いけど、あなたを救えるのは、きっと私だけなの」


泣きながら片腕にしがみついてくる田淵を、本気で気持ち悪いと思った。

一体なんなんだ。


「放せ、よっ」


手を振り払うのに狭い車内では思うようにはできず、さらに強くしがみつく田淵は、徐にスマホを取り出して、その液晶画面を俺に突きつけた。


「……え、?」


< 119 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop