キライ、じゃないよ。
「この前、あの焼肉屋の帰り、八田くんが私達と……偶然外にいた皐月さんをうちまで送ってくれたの。原川さんは酔って寝ちゃって……私も原川さんを介抱してて、いつのまにか寝ちゃってた。そうしたらあの2人、私の寝室で2人で……信じられないよ。人の家の人のベッドで……最低だよっ」


俺の為に怒ってくれているのだと思わせる、田淵にしては上手い説明の仕方だった。

田淵って、実は原川と同じタイプの人間だったんだろうか?

ぼんやりと、でも冷静に分析している自分が怖かった。

今俺に突きつけられている田淵のスマホには、田淵の言葉を立証させる写真が写っているというのに。

八田の腕枕で、穏やかな寝息が聞こえてきそうな、そんな護の表情に胸がヒリヒリする。

何も喋らない俺をどう思ったのか、田淵の声が耳元で吐き気がするほど甘く響く。


「樫くん可哀想……私は、樫くんのこと裏切ったりしないよ?」


首に手を回し、俺の膝の上に跨る形で乗ってきた。

捲れ上がったスカートをそのままに、太腿を擦り寄せてくる。

馬鹿じゃないのか、こいつ。

傷心の男なら、簡単に堕とせるとでも思ったのかよ。

勘違いも甚だしい。

どんな言葉で罵ってやろうかと、考えを巡らせた。

こういうタイプには、これ以上勘違いしないように最大級に傷つけてやるべきだ。

自分の目的の為に手段を選ばず、人を平気で傷つける人間は、徹底的に潰す。

自分でも信じられないくらい冷酷な思考に支配されて行く。
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