キライ、じゃないよ。
「護、」


目のやり場に困りつつ、それでも外の景色に意識を無理矢理向けていた。

私を呼ぶ声に振り返ると、樫が身を乗り出してきて私の唇に触れた。

自らの唇で。

それはほんの一瞬、瞬きほどの速さで。

キスされたんだと認識できるまでにしばらく時間を要した。


「か、樫⁉︎」


「なに?怒った?」


「お、怒るよ、なんで今キスなんてするの」

私達、まだそういうことできる状況じゃないよね?私、まだ樫に話してないことがある。

全部正直に話して、それで、万が一、億が一、許してもらえたら、私から告白するつもりで……っ。


「護ってさ、昔からしょうもないことに悩むよな?無駄だった分かってんのに。俺、護は悩むことが趣味なのかと思ってたわ」


「は?なにそれ。そんなふうに思ってたの?……っていうか、ひどい言い草!」


確かに何かにつけて悩んでいた。その度に樫から「無駄!」と一蹴されていたけれど。

でも、仕方ない。これは趣味じゃなくて、性格なんだもの。


「だって無駄だろ。俺、多分護のことは、たとえそれが間違いだとしても許せるし、護が何かを望むなら全力で叶えるから」


樫の言葉に紡ぐべき言葉を失う。

自信満々に「な?」なんて笑う樫を見ていたら、遠く高校時代を思い出した。
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