綺麗なブルーを描けません
「選べよ。どっちか1人だけ、ここから連れ出していい」

…あたしは、喋れないけど、言葉を失う。

このヒトは柊くんが困るのを、見るのが、心底好きなんだ。

柊くんの言ってたことが、よく理解できた。

背の高いお兄さんが、柊くんの背中にぴったりと寄り添って、少し下の、柊くんの後頭部に向かって

「ひとりだけだよ」

囁きかける。

その、綺麗な顔に、ゆっくりと、歪んだ笑みが浮かんでいく。

「寄るな」

柊くんはお兄さんを引きはがすようにして振り払うと、黙ってこっちへ歩き出した。

…ダメだからね。

あたしの方に来ちゃ。

目が合うことで、引き寄せてしまいそうで、怖くて、目を閉じる。

柊くんは、完全に部外者な、あたしの方を、ここから逃がそうとしそうな気がした。

でも、そうなると、隣にいるこのヒトの、プライドも心も、もっとボロボロにしてしまう。

人が動くと、着ている服はこんなにも、音を立てるんだ。

真っすぐな歩みは、あたしたちのすぐそばまで来て止まる。

と、そばでしゃがみこむのがわかった。

思わず目を開ける。

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