守りたい人【完】(番外編完)
「だけど、本当は違うんや」

「違う?」

「ここに越してくる1カ月前に、仕事でこの近くに来たんや」

「え?」

「何にもない所やなぁって、正直な第一印象はそれ。それでも緑が綺麗で、ぼんやり歩いてたら1人の女性を見たんや。ボーっと芝生の上に1人座って山を見ててな、長くてフワフワな髪を風に遊ばせてた。無防備なその姿があまりにも綺麗で気が付いたら足を止めて魅入ってた」

「――」

「どこか寂しそうな、悲しそうなその表情から目が離せんかった。どうして、そんな辛そうな顔するんかと気になった」


紡がれていく言葉に、瞬きも忘れて聞き入る。

そんな私を真っ直ぐ見る大きな瞳を見て、もしかしてその女性は、と思い始める。


「そのうち、その女性はゆっくりと腰を上げてトボトボと1人歩いて消えていった」

「――」

「最初は声をかけようかと思ったんやけど、まるで魔法にでもかかったように体も口も動かんかった。だけど、ちょうど近くを通りかかったおっちゃんに慌てて駆け寄って、その子の事を聞いたんや」


そう言う鍛冶君は、まるで大切な思い出を語るように、どこか夢見るように優しく笑ってそう話した。

その間、私は何も言えなかった。


トクントクンと心臓が鳴る。

その先を聞いていいのか、分からなくなる。
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