甘い脅迫生活



当たり前に誰も私の事情なんて知らない。お母さんにはああ言われたけど、今まで通り借金の返済をやめるつもりはなかった。


私には選択肢がない。借金のことを考えると、転職なんて考えている余裕がないんだ。



そして優雨の態度。それも私を混乱させる一因だった。


とにかく私に甘い優雨は、まるで私たちが普通に恋愛を経て結婚したかのように接してくる。


確かにキスはする。だけどそれだけで。私たちは最近出逢ったばかりの赤の他人だというのに。


その距離の近さに、正直、戸惑っていた。


「お疲れ様ー。」

「お疲れっすー。」



最近、色々あったからだろうか。今日はちょっと熱っぽくて。色々考えたいこともあって、早退することにした。


ある程度仕事を片付けて、さえちゃんに挨拶をした頃には、少し症状は悪化していて、駅まで歩いていくのも辛いほど。


駅まであと数分、という所で限界が来た私は、その辺の路地に座り込んでしまう。



鼓動が耳元で聞こえるほど、熱さに比例して心臓が高鳴る。


あー、これはやばい。


無理を押して朝出てきた自分を後悔していた。


ゆっくりと、熱が私の意識を追い詰める。あ、これは落ちる。そう思った瞬間。


「あの、大丈夫ですか?」



誰か男の人が、私に話しかけてきた。


もう目も開けられない私は、返事すらできなくて。


「西園寺、美織?」


男の人がそう呟いたところで、意識は闇の中に引き込まれていった。




< 159 / 185 >

この作品をシェア

pagetop