甘い脅迫生活
「っっ、気が付いたか!はぁ、焦ったぁ。」
安堵の表情を浮かべるおじさんは、私の上にかかっている毛布をそっと掛けなおしてくれる。
「おじさんって、誘拐犯、ですか?」
「っっ、」
おじさんが目を見開いた。自分で言ったのに私も驚いている。
「ふふっ、それって聞くことじゃないですよね。」
「……。」
思わず笑ってしまった私は、誰かのベッドに横たわっている。周りの風景は工場のようなところから、生活感溢れる誰かの家になっていて、雑然と物が並べられた散らかった部屋に似合わず、シーツからは太陽の香りがした。
「なんで笑ってられるんだ、」
おじさんが悲痛な声を挙げる。それだけで十分、この状況をおじさんが心から望んでいないことが分かる、から。
「私ね、こう見えて社長の娘だったんですよ。」
「……。」
虚ろな目を上げるおじさんに、少しだけ昔話をしたくなった。
『君を傷つける権利なんて、誰にだってあるはずはないのにっ。』
「私にその言葉を言った子は、私よりもっとお金持ちで。うちの会社の規模くらいじゃ出逢うわけもない子だったんです。」
正直ほとんど覚えていない。子供の頃の記憶なんて、すぐに曖昧になって、消えていくだけだから。