バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 いけない。仕事中に自分のことなんか考えてちゃだめだ。

「はい。申し訳ありま……」

 謝罪の言葉を口にした私の唇が、パッカリ開いた状態のまま固定されてしまった。

 なぜなら私を叱責した人が、思いもよらない超重要人物だったからだ。

 目の前に立つ人物のスラリとした長身を包む高級スーツは、当館のドレスコレクション部門と提携している海外ブランド品。

 世界的に有名なカッティング技術が生み出すシルエットの優美さと、素材の贅沢さが、若々しい中にも堂々たるエグゼクティブ階級の風格を漂わせている。

 他を圧倒するオーラを放つ、この人は……。

「ふ、副社長ぅ!?」

 我らがボヌシャンス迎賓館オーナーのご令息であらせられる、名取響(なとり ひびき)副社長じゃないですか!

「変な声を出すな。お客様に聞かれたらどうする」

 副社長は人さし指を自分の唇に当てて、裏返った声を出した私をたしなめた。

 切れ長の凛々しい二重の目。スッと通った鼻筋。ほどよい厚みの唇の配置バランスが絶妙だ。こうして間近で見ると、その完璧さがよくわかる。

 これは本人がすごいというより、この顔を世に生み出した社長夫人の功績を賞賛すべきかも。

 世の中、こんな人間が本当に実在してるのね。地位も、財産も、顔にも身長にも恵まれた御曹司なんて、マンガかドラマにしか存在しないと思ってた。
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