バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「一曲聞かせてやってもいいぞ?」

「え!? いいんですか!?」

 目を輝かせる私に、副社長が微笑みながらうなづく。

「せっかく鉄針も買ってあるんだし、特別サービスだ。知ってるか? 蓄音機の針には植物のトゲで作られた物とか、竹針なんかもあるんだ」

 蓄音機にレコードをセットしてゼンマイを巻き終えると、ターンテーブルが滑らかに動き出す。その上に彼が慎重に針を落とす様子を、私はドキドキしながら眺めていた。

―― ……♪~

 針が盤を擦るサーッという音に混じって、独特の音色が流れ出した。

 当然ながら音質は良くないけれど、電気信号の機器ではとても味わえない、空気が柔らかく歌うような郷愁に満ちた音が全身を包み込む。

 初めて聞くスローテンポなメロディーにうっとり耳を傾けていると、副社長が私に向かって恭しく片手を差し出した。

「一曲お相手願えませんか?」

「…………」

 たっぷり数秒間は経過してから、私は千切れそうなほど全力で首を横に振った。

「いえいえいえ! ご遠慮申し上げます!」

 ダンスなんてとんでもない! 自慢じゃないけど、ワルツもタンゴもジルバも踊ったことのない無粋な人間なんだから。

 及び腰でジリジリと後ずさる私に、彼は詰め寄りながらますます手を伸ばしてくる。
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