バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
「おい。なにもそんな、ホラー映画の追い詰められたヒロインみたいに必死に嫌がることないだろ? さすがにちょっと傷つくぞ?」

「だって恥ずかしいです。踊れないんですから」

「俺たち以外に誰もいないんだから、気にする必要なんてないさ」

 彼は強引に私の右手を自分の左手で掴み、肩の高さの位置で固定する。そして私の背中に回した手を肩甲骨の下辺りに添えた。

「お前のこっちの手は俺の肩に置いて」

 まさか副社長の手を振り払って逃げ出すわけにもいかない。諦めて言われた通りに手を添えると、彼が待ってましたとばかりに颯爽と踊り出した。

「簡単だろ? スロー、スロー、クイック、クイック……」

 ひえぇ。そんな一般常識みたいにステップを指示されても、私にはなにが“スロー”で、どこらへんが“クイック”なんだか、わかりませぇん!

 ジタバタと乱れた足どりで、へっぴり腰を披露するダンス初体験。曲調がすごくゆったりしているのだけが救いだ。

 押されたかと思えば引かれて、そうかと思えば向きを変え、副社長にリードされながらサロンの中をジグザグと移動しているうちに、それでもなんとなく足運びの法則が読めてきた気がする。

 そうなってくると、なかなか楽しい気持ちになってくるわけで、少しでもうまく踊ろうとがんばってみたりして。
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