バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 紫色のパーティードレスに身を包んだその女性は、セティやらテーブルやらを、力任せに片っ端からなぎ倒している。

 額縁や仕掛け時計が乱雑に散らばった床の上には、どうやら無茶苦茶に踏みつけられたらしいお色直しのカラードレスが、見るも無残な状態で広がっていた。

 なにが起こっているのか、この人が誰なのか、なんでこんなことをしているのか、まったくわからない。

 目の前の状況に反応できず、唖然としている私の隣に駆け寄ってきた花嫁様が、中の様子を見て小さな悲鳴を上げた。

 するとその声が聞こえたのか、暴れていた女性がクルリとこちらに振り返る。

 こんな乱暴なことをしておきながら、不気味なほど無表情で虚ろな目をしたその女性が、花嫁様の姿を見た途端にみるみる凶悪な表情になった。

「あ、あなたは!」

 明らかにこの女性を見知っているらしき花嫁様が、サッと怯えた様子を見せた。

 対して正体不明の女性は、獣みたいな唸り声を上げながら目を吊り上げて花嫁様に向かって突進してくる。

 この危機的状況にようやく思考能力が復活した私は、花嫁様に襲いかかろうとしている女性の体に抱きついて、全力で押し戻した。
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