バージンロードで始めましょう~次期社長と恋人契約~
 今日使用される予定のなかった部屋はカーテンが閉められたままで、薄暗い。

 女性は部屋中央に置いてあるローズウッド製のティーテーブルセットのイスに、うつむきながら腰掛けていた。

 その傍らに立っている男性スタッフと目で挨拶を交わし、室内に入って扉を閉めた私は、彼女が座っている席に歩み寄って静かに着席する。

 彼女はピクッと顔を上げて私を見たけれど、すぐにまた下を向いてしまった。

 こうして改めて見ると、私と同年代くらいの目鼻立ちの整ったなかなかの美人だ。

 すっかり乱れてしまった髪やお化粧を差し引いても、上流階級のお嬢様然としている。

 実際、あの花婿様とお付き合いがあったのなら、本当に良家のご令嬢なんだろう。

 身につけているドレスもかなりの高級品だし、これなら混雑しているパーティー会場なら、普通にゲストとして紛れ込めただろう。

 なんだか魂が抜けたような表情をしている彼女は、なにを話すでもなく、黙って座ったままだ。

 私も敢えて声をかけるでもなく、黙って部屋の様子を眺める。

 唐草模様の壁紙や、壁一面に作り付けられている大きな木製書棚や、その中にびっしり詰まっている古びた背表紙の書物が、書斎らしいとても落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 重厚で、物静かな空気の漂うこの書斎の間を、彼女を隔離しておく場所に指定した副社長の考えが私にもわかる気がする。

 誰もなにも語らない空間に、時計の針の音だけがカチカチと規則的に響き、穏やかな時間が流れていった。
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