私たちは大人になった
どこに連れていかれて、何をされるのか。
恐怖は言葉を失わせ、喉の奥がひくつく。
同じ建物の中に人はいるのに救いを求める声が出ない。
『だから言ったんだ。全然大丈夫じゃないじゃん』
グイ、と反対側の腕を引かれ彼の進行が止まる。
布越しの腕に伝わる熱に、鼓膜を震わす声に途方もなく安心して私はようやく力を取り戻した。
思いきり振り切った手は、彼の不意をついたらしく案外あっさりと離れた。
そのままの勢いで優は私を後ろに追いやる。
思わずその背中にしがみつきたくなったけど、聞こえた言葉に肩がビクッと震えて我に返った。
『みっともないよ、お前』
一瞬、私に向けられたのかと思ったその言葉はまっすぐ彼を見据えていて、そうではないと知る。
そしてその言葉はどうやら的確に彼を攻撃をしたらしい。
優越しに見た彼の顔は、みるみるうちに眉間に深い皺が刻まれた。
『お前、誰?』
『誰でも良いだろ』
『……なら引っ込んでくんない?そいつは俺の彼女なんだから』
優の後ろでなにも言えずにうつ向いた。
『お前にとって“彼女”って、なんなの?』
『は?』
『お前はこいつの事が好きだから付き合ってるんじゃないのか?って、聞いてんだ』
『当たり前だろ!』
彼がそう良い放つと、優は間髪いれずに言う。
『なら、好きな女にこんな顔させんな!』
ドンと押された彼は不意討ちだったからかよろめいた。
その拍子に目があった彼は困惑の表情をしていて、かつての彼の片鱗が見えた気がした。