私たちは大人になった

『行くぞ』

グイ、と腕を引かれて歩きだす。
閉ざされた扉の中の教室では、どの部屋も粛々と授業が行われている。
黒板や教科書に目が行っている先生たちは、静かに廊下を歩いているだけの私たちには気付く事もなくすんなりと進む。
腕を引かれるまま向かったのは教室ではなくて、空いていた第2視聴覚室。
すたすたと中ほどまで進み、私を席に座らせると優は大きなため息を吐いて、わしわしと私の頭を撫でる。

『お疲れ。頑張ったな』

乱暴な手つきに反するように言葉は優しく、それだけにまた胸がぎゅうっと捕まれたように苦しくなって思わずうつ向いた。
閉じた瞼から、思い出したみたいにするりと涙は溢れ落ちてスカートを点々と濃く染める。

恋は頭でするものじゃない、落ちるものだ、と誰かが言った。
その言葉が本当だったとしたら、多分きっと、私はこの日恋に落ちたんだと思う。






―――ひどく、懐かしい夢だった。

目が覚めて、覚醒しきらない頭で体だけを起こす。
気だるさが残っているのは、しっかりと眠れていなかったからか。
夢が鮮明だったおかげで、感情の行き場がわからない。
私は大人になったのかと問われると、それは相変わらずわからないけれど、ひとつ確かなことは、あの頃の私はまだ子どもだったということだけだ。


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