私たちは大人になった

就業時間はそれなりに真面目に仕事をこなして、昼食を取るために一人で外に出るために声をかけた。

「お先にお昼いただきます」
「……」

そこに返事はなく、三々五々に散っていく。
業務外の不要な言葉には返事もしません、か。
いっそ私がいないときは和気藹々としてくれてるならそれでいい。
けど多分そういうわけでもなく、私がいようがいまいが終始こんな雰囲気なんだろう。
社内の空気はピリピリしているように感じて、気が滅入る。
職場である以上、仲良しこよしなんてのはしなくてもいいけどもう少し円滑にならないものか。
外気に触れて一息。
太陽は高く登り、空気は晴れやかだ。

ブブブ、とバイブ音がスマホの着信を知らせる。
この時間に入る着信は大体が優だ。
確認するとやっぱりそうで、他愛もないこのやり取りが互いを想い合う恋人同士のように感じて嬉しくて切なくなる。
多分、以前に職場の空気がギスギスしていてお昼くらいしか気が休められないと話したことを覚えていての事だろう。
だけどいい加減、ちゃんとするならその優しさも振り払わなければいけない。

「子供じゃないんだから、か……」

大人とか、子供とか、もうそんなのどうだっていいじゃない。
名前をつけてしまえば終わるこの関係を終わらせなくないと願う程には、昔も今も優は私の支えだ。

見上げた空では、雲が形を変えながらゆっくりと動いていく。
ひとつの記憶を思い出すと、するすると違う記憶までも引きずり出される。
忘れていたわけではないけれど、あえて思い出そうともしなかった過去。


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