私たちは大人になった

「ノスタルジックな話ねぇ」

仕事帰りに食事がてら顔馴染みのカフェのカウンターで、これもまた顔馴染みの店員さんに持て余す気持ちと過去について聞いてもらうと、そんな答えが返ってきた。

「それを未だに引きずってる訳なんですけどね」
「いいじゃない?それでも」
「ですかねぇ」

それで良いとも良くないとも言えず、曖昧に濁してしまう。
この気持ちにこの先の人生を懸けるとするならば、どんな未来が待ち受けるかは分からないけれどこのままで良い。
例えば、優に別のお相手ができたとしても、甘んじて受け入れるだけの覚悟があれば。
そうでないのならしっかりと区切りをつけるべきなんだ。
人並みに結婚なんかして家庭を築くことを考えるならば、ずっとこのままでいて良いはずがない。
大人だからなり得てしまう関係で、大人なのに捨てきれない関係。
そして、大人になっても言えない気持ち。

「アタシには素直に好きって言えるのに」
「ここには本人がいませんから」
「言ってみたって、良いんじゃないの?」
「とてもとても。……もう、拗らせすぎてしまって、何をきっかけにどう言うのかも忘れちゃいました」

口に運ぶでもなく、スプーンでオムライスをつつくと店員さんはその様子を静かに見つめている。

「違いますね、そんなのただの言い訳です。言ったらこの関係も崩れてしまう、それがただ怖いんです。気持ちは通わせられなくても、手を伸ばせばそこにいる、この距離を崩すのが」

そう言って最後の一口をようやく口に運ぶと、優しい微笑みと目があった。


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