私たちは大人になった

始まりの始まりは、雨の卒業式。
ふたり並んで歩いた帰り道には特にこれといって話題はなくて。
むしろなんで一緒に帰ろうなんて言われたのか疑問を持つくらいだった。

『……マネちゃんとはこの後一緒に過ごすの?』

家の近くまで来てようやく口をついて出たのは、言った直後に後悔するもので、泣きたくなった。

『お前に構いすぎて、とっくにフラれてる』
『え、』

どういうこと?と、聞き返したかったはずなのに、言葉が繋がらなくて。
代わりに繋がったのは、手。
雨粒が傘を打つ音がふたりを包む。
一瞬が永遠にも感じて、だけどそんなのは永遠には続かないことも承知の上。
この手を離したくない。

『慰めてよ』

切なく歪んだその顔から放たれた言葉は、甘く響く。
言葉尻を耳が捉えたと思ったと同時に手を強く引かれて、私はその腕に抱き締められていた。
驚いて手からこぼれた傘が地面に落ちていく。
優の傘の中にふたりだけが閉じ込められる。
小さなビニール傘はふたりを包み込むには足りなくて、持っていた荷物ごと肩が濡れる。
でもそんなことお構いなしに、その背中に腕を回した。
優の身体がピクリと動いたから、離れたくないと口にするより早く回した腕に力を込めた。
しばらく抱き合ったままで傘を弾く雨音と、慣れない心音とを聞いていた。

どこからか足音が聞こえて、慌てて体を離して落ちてしまっていた傘を拾い上げて。
何もなかったみたいに歩き出した。
家はもう目の前なのにギクシャクした空気がふたりの距離をさっきよりも広くする。

『慰めて、あげるよ』

やがて口から出た言葉は“好き”とも“付き合って”とも違う言葉だった。


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