私たちは大人になった
「あれ?」
玄関の扉を開けようとして、回した鍵は手応えがなく空回りした。
誰か帰ってるのかな、珍しい。
ちらりと腕時計で時間を確認すると21時前。
ワーカーホリック気味な両親は、昔から残業出張当たり前で、帰宅時間が21時を回るのは普通のこと。
残業なんのと厳しくなった昨今でも、なんやかんやと理由をつけて残っているらしい。
それでもやっぱり、昔に比べたら遥かに帰宅時間は早くなってはいるのだけれど。
「ただいま」
明かりのついたリビングを覗いて声をかけると、食卓には母お手製の物とおぼしきご飯が並んでいた。
「あら、おかえり。ご飯食べる?」
「……残念。食べてきちゃった」
「まー。薄情な娘ね。要らないなら連絡しなさいよ」
「いやだって。こんな早いとは思ってなくて」
「ま。それもそうね」
早く仕事が終わったならあんたが作りなさいよ、なんて口にしない母は、とてもさっぱりしている。
至らない娘で申し訳ないとは思いつつ、そのさっぱりとした性格に今は甘えるとして、次の休みにでも挽回のためにご飯を作ることにしよう。
「ところでね、あんた」
自室に戻ろうとしたところに呼び止められて振り返ると、なんとも言えない微妙な顔をした母が口を開いた。
「優くん、また出ていくの?」