私たちは大人になった
『……遠慮しとく。あんまりお酒、強くないし』
『そっか』
差し出されたのでロックグラスはあっさり引き下がって、もとの持ち主の口元へいく。
その様子を見届けて、私も口を開いた。
『仕事、楽しい?』
『まぁ、普通に』
『そっか……』
私の様子がおかしかったのか、優は食いつき、話を繋げる。
『楽しくないの?』
『仕事自体に不満はないんだけどね』
そうして、職場環境の愚痴をこぼしていた。
今まで何人かに話してきたけれど、よくあることだよ、とか、割りきれば良いじゃん、なんて言われるばかりだ。
ワーカーホリック気味な両親を見て育った私は、仕事とはさぞかし楽しくやりがいがあるのだろうと思っていただけに、仕事内容とは別のところで仕事に挫けそうになるなんて思いもよらなかった。
『空気って言うか、ね。息が詰まる環境だよ。お昼休みに外に出るのが唯一の安らぎみたいになってる』
『ふーん』
聞いてきたわりにそっけないのは相変わらずで、でもそこには否定も肯定もなく、ただ唯一あるのは私の言葉を受け止めた優の心ひとつ。
その時の私には、優の呟いた『ふーん』が、いたく優しく響いて心が救われた。
だから多分、とても素直になれたんだと思う。
『でも仕事、やめたくはないんだよね。……誰でもできるような仕事だけど、私なりにやりがいみたいなの、ようやく見えてきたところだし』
『ふーん』
『矛盾してるように聞こえる?』
『いや、いんじゃない?矛盾なんて誰だって抱えてる』
『そっか。そうだね』