私たちは大人になった
その言葉に頷き、コップを傾け残っていたウーロンハイを飲み干した。
次も同じで良いかな、とメニューを取ろうと手を伸ばしたらその手を逆に捕まれた。
捕まれた腕から視線を辿ると、優がこちらを見つめていた。
『何?』
訳がわからなくて尋ねても明確な答えは返ってこなくて、少しの沈黙が流れる。
まだまだ賑やかしい空気の中で妙な空気に包まれた。
『ねぇ、何?』
もう一度尋ねると、それに呼応するように腕から手に優の手は移動して、指と指とが重なった。
ゆっくりと人目につかないように下ろされるのに合わせて、私の鼓動が速度をあげてくる。
静かにテーブルの下できゅっと重なった手は暖かく大きい。
『……俺ね。忘れられない人がいるんだ』
カッと頬が熱くなった。
忘れられない人が誰なのか、はっきりとした言葉はない。
優は平然とした顔をして繋がれていない方の手が掴んでるグラスを見ている。
視線は交わらないのに、気持ちだけが加速度を増す。
忘れられない人が、私だったとしたら。
私だって優が好きだったんだと伝えられるのに。
『お前は?居ないの、付き合ってるやつとか』
こんな風に手を繋いでおきながら、そんなことを言う優はとても意地悪だ。
私の心なんて解っていてしているようなものだ。
優の行動はとても分かりやすいのに、本当の心はわからない。
どうせまたすぐに居なくなるくせに、思わせ振りなことばかりして、私の心を揺さぶる。
付き合ってる人は居なくとも、私にも忘れられなかった人がいる。
そう言ってしまえば良いはずなのに、確信が持てる言葉がなくて、臆病な私はまた逃げの言葉を使った。
『慰めてあげようか』
それが合図のように、優はグラスを空にした。
会費は来たときにすでに払ってある。
私たちは賑やかなその空間をそっと抜け出した。