私たちは大人になった
シャワーを使う音が浴室から聞こえる。
重たく気だるい身体を起こし、なれない痛みを抱えながら衣服を身に付ける。
本当は私だってシャワーを浴びたいところだけれど、状況はそれを許していない。
優が出てくる前に宿泊代として適当にお金ををおいて部屋を出た。
『学生の頃と何も変わってないじゃん、私』
エレベーターに乗り込むと、ポツリ呟く。
誰もいない小さな箱の中では思っていたよりも大きく声が響き、苦笑がこぼれた。
人気のないロビーを抜けて外に出ると広がる闇。
大通りまで出ると、24時間営業のファミレスやコンビニのネオンが目に痛いほど光っていた。
電車も動いてないような時間で、帰宅手段と言えばタクシーだけれど、さすがにゴールデンウィーク真っ只中とあってはタクシーも捕まらない。
そのまま大通りを歩きながら、空きタクシーを探してようやく捕まえた頃には深夜2時をゆうに越えていた。
背中シートに預けながら、目を瞑ると、先程までのことが思い出されて恥ずかしさと困惑となんとも言えない苦い気持ちになった。
『好きだよ、か』
『え?』
『いえ、何も』
呟いた言葉がタクシーの運転手さんに聞こえたらしく、聞き返されてなんでもない風を装う。
関係のないところでなら言えるのに。
タクシーの運転手さんにさえ届くのに。
いい加減、私だってどうにかしなきゃ。
ひとりで生きていく覚悟を決めるなり、違う誰かと生きる覚悟を決めるなり。
頭ではわかっている。
わかっているのに、どうにもできない感情はそれでもなんの覚悟も持てずに時間だけがただ流れた。