颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
再びギロリと睨まれた。


「あのですね、実はお見合いの話がありまして。あ、でもまだお見合いだと確定したわけじゃなくて」
「そう」
「どうしよかなー、なんて考えてしまってですねー」
「そう」


行くな、とか、オレと結婚して、なんてはっきりとした言葉じゃなくてもいい。
行って欲しくないな、とか、一応オレ彼氏だし、とか、ほのめかすことでもいい。

そしたら、いいひとがいる、って母に言える。
結婚まではまだわからないけど、好きな人がいるんだって。

スツールに座ったまま、上目遣いに見上げる。
桐生颯悟はジャケットを羽織り、襟を直していた。とくに動揺した様子もなく、飄々とした表情だ。


「止めないよ、オレは」
「え?」
「だって面白そうじゃん? みのりは振袖着るの? 本日はお日柄もよく、なんて言ったりするわけ?」
「まあ……。振袖は持ってますけど」
「じゃあいいじゃない。すっごくいい話かもしれないじゃん? キミの好きな外車を乗り回してるかもしれないし、年上かもしれないし。美味しい食事も出るんでしょ。楽しんできなよ」


にこにこにこにこ。
なんだかすごく楽しそうな桐生颯悟。

ブリーフケースを手にすると颯爽と玄関に向かう。


「じゃあ先に行くね。仕事して勝手に現実逃避してなよ」
「そ、颯悟さ……」


パタン。
いってきます、のキスはなかった。
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