颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
背は高からず低からず、黒縁のまあるいフレームの眼鏡、ソバカスもあって、どことなく牧歌的な雰囲気。ハイジに出てくるペーターみたいな。

ペーター氏は桐生颯悟ではなく、私を見つめていた。にこにこと。差し出された彼の右手の上には名刺ケース。


「さっき入場券売場のところでこちらを落としませんでしたか?」
「あっ、私のです!」


私はそれを受け取り、彼にお礼を言った。笑顔で立ち去るペーター。なんたるベタな展開。桐生颯悟は呆れ顔で私を見つめていた。


「なんなのキミ。声かけられたくてわざと落としたとか?」
「そんなわけないじゃないですか。チケットの割引券を出そうとして一緒に鞄からでちゃったんだと思います。わざとだなんて」
「そう? キミ、ああいう地味なタンポポっぽいひと、タイプでしょ?」


タンポポ男。ああ確かに。桐生颯悟みたいなトゲのあるバラとか誇り高過ぎて手も出せないカサブランカとか、全く私の好のみではなかった。


「それは否定しませんけど、後ろにあのひとが並んでたなんて知りませんでしたし、ってか、颯悟さん、ひょっとしてヤキモチですか? ヤキモチですよね?」
「うるさい、もう。次行くよ、コケダマのワークショップ終わっちゃうから!」
「うわわ、待ってください! まだ全部見てないじゃないですか」
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