颯悟さんっ、キスの時間です。(年下御曹司は毒舌で腹黒で…でもかわいいかも?)
私は慌ててカバンから手を離した。徳田さんがカバンを持つ格好になる。


「と、徳田さん、何するんですか!」
「ごめんね。間違えちゃったんだ。わざとじゃないよ。ほら間もなく発車だって。乗りましょうか」


ニコニコ。
いや、わざとだ。

桐生颯悟を見やると心配そうに私を見ていた。何か声を掛けたかったけど、時間もないから仕方なく乗り込んだ。

荷物を棚に上げ、窓側に座る。
窓の向こうには桐生颯悟。

切なそうな顔でこっちを見る。

ああ、さっきキスし損ねた。
キス、したかったな……。

窓ガラスに唇を押し当てると、ホームにいた桐生颯悟の顔はあっという間にあきれ顔になる。

“バカ?”

そう彼の口元が動いた。キスしてくれるわけないか。でも桐生颯悟の手がおもむろに上がり、人差し指がこっちに向かってきた。

トントン。
窓越しにつつかれて。

桐生颯悟が私と目を合わせて、ほんのり笑って。唇をすぼませて、次に横に開いて。

あ……ひょっとして。

“好き”?

そしたら今度は大きく口を開けて、横に伸ばして、すぼませて、横に開いて。
トントントントン、と4回、指でたたく。

“大好き”?

ぐああああ!
なんたるかわいさ、なんたるしおらしさ!

あまりの感動に視界が霞む。
そしたら今度は、唇を大きく開いて、横に開いて……。

え? なに??


プルルルルル。


非情にも発車ベルが鳴り響いた。
桐生颯悟は窓から指を離して後ろに下がった。

車両が動き始めて、窓から見える桐生颯悟と景色は横に流れていく。唇を窓に押し当てたまま、目を横にやるけどあっという間に見えなくなった。

桐生颯悟。
何を言おうとしたの?
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