たった一つの勘違いなら。


「なんですか?」

「元気になったなと思って」

「私だけですか?」

「俺も楽しかったよ。休みの日にまで二課の奴らなんか見たくないと思ったけど」

なんとなくキスしてきそうなのがわかって避けた。

「西山くんが好きなくせに」

「いつから『くん』?」

「年次も下だからそう呼んでくださいって」

「俺のいないところでそんな話?」

「時々階段ですれ違うんです。大丈夫です、彼は私のライバルですから」

なんだか方向をすり替えられそうなので言っておく。すごく好きですよね、彼のこと。

「その思い込みの強さはどうにかならないの?」

「でも女の人はダメですからね」

「はいはい」

キスする気は失せたらしく、なだめるように軽く頭を撫でられる。



そのまま少し黙っていた真吾さんが、上を向いて言う。

「俺の要望もそろそろ少しは聞いてもらっていい?」

「はい、もちろん」

一緒に暮らしても真吾さんからの要望はあまりないので確かに気にはなっていた。何か思ってることはあるのだろう。

「敬語、やめて」

いきなりじっと私を見て言う。一緒に暮らし始めた時にも言われたんだけど、それはちょっとと断っていた。

「でも私は本当はわがままなので、ちゃんとわきまえてないと」

「線を引かれてる気がする。引いてないはずだよね?」

「はい」

「詩織のわがままを受け止められないほど小さい男だと思ってる?」

真吾さんは上手に痛いところをついて来る。



「詩織?」

「だって」

「ん?」

「真吾さんに釣り合うちゃんとした奥さんになりたいです。私たぶん地味でしっかりしてる感じとか、そういうのが取り柄なのに」

「いつ俺がそんなこと言った?」

声が笑ってるから、勇気を出してみる。

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