素直になれない
その視線の意味は分かってる。


彼には特別な子がいるのだから、不毛な想いは捨てろってことでしょう。


分かってるし。


寧ろ、はっきり分かって良かったとさえ思えるわよ。


これで日向先生に恨み言を言って綺麗さっぱり過去の清算ができるってもんよ。


「……?どうかした?いきなり黙り込んじゃって大丈夫?」


そう言って本庄さんの心配そうな声がかかった直後、処置室のカーテンが開いて慌てた様子で日向先生が入ってきた。


「あ、茜、余計なこと喋ったりしてないだろうな」


あ、もしかして彼女のこと話されるの恥ずかしいとか思ってるんだろうか。


「余計なことなんて話してないわ、リンちゃんには」


「!」


ワナワナと肩を震わせる日向先生の顔が赤くなったり青くなったりしている。


「リン、茜が何を話したか知らないけどな?こいつの話だけを鵜呑みにすんなよ?」


なんだろ、なんでこんな風に慌ててるんだろ。


別にいいじゃない。


私には関係ない。


「別になにも……私には関係ない話ですから。失礼します」


「え、?ちょ、リンちゃん?」


「おいっ、リン!」


2人の私を呼ぶ声は聞こえていたけれど完全に聞こえないふりして処置室をでて、丁度交代で降りてきた看護師と交代して休憩にあがった。

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