偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「……おまえんとこのオカンの味、やな」
いきなり、稍の顔からすーっと微笑みが消えた。
企業の研究室に勤める父と、デパートで当時バイヤーだった母は、忙しすぎてなかなか一人息子である智史と晩ごはんを食べられなかった。
そこで、不憫に思った専業主婦だった稍の母が智史を家に呼んで、稍たち家族と一緒に晩ごはんを食べていたのだ。稍の家と智史の家は同じ並びにあった。
「お揚げさん」は、稍が家から持ってきた薄口醤油と三温糖とみりんで、ほんの少し甘辛く焚いたものだ。関西では煮物のことを「焚き物」とか「焚いたん」などと呼ぶ。
「おれにとっては……本当のオカンよりもずっと『おふくろの味』や」
そう言って、智史は油揚げと蕎麦を同時に口の中へ入れた。