偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

引っ越し蕎麦を食べ終えたあともせっせと作業を続けた結果、夜にはリビングの片付けは終わった。物置部屋は、明後日に収納家具が届いてから片付ける。稍のマンションにある荷物を持ってくるのもそれからだ。

ルンバが所定の「寝床」へ戻って行ったのをキッチンから見届けた稍は、部屋の中全体を見渡した。まるで、ドラマに出てきそうなくらいになっていた。

もともと、衣類によって埋没していたカウチソファも、書類によって埋没していたガラスの天板のローテーブルも、びっくりするほど上質でオシャレだったのだ。もちろん、五十インチを軽く超えるテレビと、それを支えるテレビボードも。

稍のおのぼりさんの血が喜んで、どくどくサンバのリズムを刻みそうだ。

稍はいそいそと、ハンドドリップでコーヒーを淹れた。たちまち、芳醇な香りがリビングにまで広がる。

だが、しかし……

「稍、明日はうちのオカンのとこへ行くぞ」

リビングでタブレット使って仕事をしていた智史が、ソファから首をキリンのように伸ばしてそう言い、にやりと笑った。

リムレスの眼鏡のレンズが、きらりと光る。
稍と同じくレーシックで矯正済みらしいから、視力はもう悪くない。ブルーライトをカットするためのものだ。

「『結婚』の報告や……あの『婚姻届』の出番やな」

稍の顔が苦痛で歪んだ。もう血は、どくどくご陽気には流れなくなってしまった。

稍は沈んだ気持ちで、智史にコーヒーを出した。


……いきなり「ラスボス」と対戦やなんて、ひどくない?

< 249 / 606 >

この作品をシェア

pagetop