偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

登茂子は時計をちらり、と見た。
いかにも「仕事のできる女」という感じの、黒のクロコ革のカルティエ タンクアメリカンだ。
大きなトノーフェイスがよく似合っている。

「智史、わたし今、めっちゃ忙しいねんけど」

切れ長の鋭い目をMAXに光らせて、わが息子をぎろり、と睨む。

「よりによって、GWの書き入れ時に来るやなんて。今の時期は中国も大型連休やって、あんた知ってるやろ?」

それが、息子の「作戦」の一つだった。

「それで……なに?わたしを『不幸』のどん底に陥れるこんなもんを職場で見せつけて『証人になれ』なんて、おめでたいことでも言わはるつもり?」

目の前のローテーブルに広げられた婚姻届を鼻先で、ふふん、と嘲笑(わら)う。

「……そうは問屋が卸さへんから。あんたらがそれを役所に出すのは勝手やけど、わたしがあんたらを認めることは絶っ対にないから」

しかし、すぐにその表情は引き締められていた。
その切れ長の目は憤怒の色に燃え盛っている。

「……いや。証人になる必要はない。オカンには『報告』に来ただけや。いくらなんでも『一人息子』が知らんうちに、役所に婚姻届出して結婚してたらショックやろうと思てな」

静かに、智史は告げた。

登茂子の片眉が上がり、(いぶか)しそうな表情が加わる。

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