偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「……なんでここに来たいと思ったん?」

水で濡らした墓石をタオルで拭いながら、稍は尋ねた。

「ここに墓があるっていうのは知ってたんやけど、一度ちゃんと墓参りに来なあかんな、とはずっと思ってたんや。
……一応、この道でメシを食うきっかけを与えてくれた人やからな」

智史は墓石の裏側の方を拭っていた。
「その人」の名が彫られた文字を見る。
生を受けた神戸の地を小学生の頃に離れて以来、遠ざかっていたのは智史も同じだった。

表側にいた稍は、智史のいる裏側に回って、墓石に刻まれた「その人」の名前を指でなぞった。

「八木 (さとし)」と彫られていた。
享年は「二十一才」とあった。

命日は、あの地震の日であった。

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