愛しているなんて言えない
私は掛けてある白衣を、手術着の上から羽織った。

最近は、肌も宿直に耐えられなくなってきた。

鏡を見ても、マスクをしていた顔の下半分が、汗でグチャグチャになっている。

ああ、化粧直さないと。

白衣に忍ばせておいたファンデーション片手に、ササッと化粧を施した。


余所行きの顔。

この顔を脱ぎ棄てて、素の自分で会える人と、私はいつ出会うのだろう。


「あっ、もうこんな時間。」

私は手術が終わって、一息つく間もなく、1階にある救急外来に直行した。

救急外来は、1階の端にあった。

階段を降りると、既に宿直に来ていた、他の先生がいた。

「お疲れ様です。」

「お疲れ様です、高住先生。」
< 5 / 18 >

この作品をシェア

pagetop