輪廻ノ空-新選組異聞-
「用がおへんのどしたら、ご自分の室にお引き取りになっとおくれやす!!」

被った手拭いを脱ぎ捨てながら、紗英さんは怒鳴った。

「吉田はんも、物騒な世の中やのに、知らん人と気軽に口をきいたらあきしまへん」

沈黙がおりた。

それを破ったのは関口さん。

「お紗英さん」

関口さんは唖然とした顔のまま。

「お客を捕まえてなんちゅう口聞きじゃ」

「そうえ。紗英、お下がりやす」

ピシャリと女将さんも叱る。

紗英さんは一言も口をきかず、わたしを一度睨みつけると、くるっと背を向けて立ち去った。

「あ、あの…」

わたしはおずおずと口を開いた。

「すみません。わたしが気安く振る舞ったばかりに」

「いいえ。店の者がお客はんに、あないな口をきくのはご法度どす。堪忍しとくれやすな。きつぅに言い聞かせときますよって」


「とにかく、すみませんでした。少しわたしも慎みます」

深々頭を下げた。

「主人が戻るまで、まだ間がありますので、わたしは京見物にでも行って参ります」

「どなたも付けんとお一人どすか?」

「大丈夫です。今日あたり、大坂から番頭が様子を見に来る筈。三条通にいれば落ち合えるでしょうし」

行って参ります、と、わたしは関口と言う偽名の吉田さんに会釈を送って、池田屋を出た。

この数日で得た一通りの情報をつなぎ役の山崎さんに伝えないと!
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