輪廻ノ空-新選組異聞-
小走りに追いかけるわたしを振り向きもせず、沖田さんは四条橋のたもとにくると、橋は渡らず、鴨川の河原の方へとずんずん降りて行った。

ぜぇぜぇ言いながら追いかけて、川上へとかなりの距離を歩いた所、雑草が鬱蒼としたあたりで、ようやく足を止めた沖田さん。

やっと振り向いて。

「もう、いいですよ」

気を抜いても、と言って、わたしに手を伸べると、肩を優しくポンポンと叩いてから、ほとんど抱き締めてくれるような距離になって、背中を撫でてくれた。

「初めてなのに、良く頑張りました」

「う……っ」

囁かれた言葉に、堰を切ったように色々なものが溢れてきた。

最初に涙。
そして、嗚咽と一緒に吐き気。


草むらに踏み込み、屈みこんで、泣きながら嘔吐する私の背を、沖田さんはずっとさすってくれて。余計に涙が出て。そして…震えが止まらなくて。

人を斬ったんだ。

人の命を断った。

人殺し……。


「斬らなければ、あなたが斬られていました。死んでいたかも知れない」


わたしの心を見透かしたように沖田さんが言ってくれた。

「はい…」

「にしても…凄いですねぇ。私は初めて人を斬った時、刀が手から離れなかった」

力みずぎて、力いっぱい柄を握っていて、事を終えても硬直していて、自分で指を一本一本こじあげないと駄目でした、と沖田さんは苦笑まじりに。

「それは…沖田さんは背中を叩いて喝を入れてくれましたし、日頃、真剣での稽古をつけて下さっていたからです」
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