輪廻ノ空-新選組異聞-
屯所に戻ると土方さんからの呼び出しがあった。

「失礼致します」

副長室の前、膝をついて告げると「入れ」と、短く返事があって、わたしは室内へと入った。

「今日は見事だった。検分したが、太刀さばきの筋が良い。てぇした女だな」

最後は小声になっての言葉。
まだ手や感覚に斬った感覚の残るわたしには吐き気を呼ぶだけの言葉だったけど…ほめて貰えたのは素直に嬉しかった。

「ありがとうございます。今後もお役に立てるよう、もっとしっかり頑張ります」

吐き気に耐えながらボソボソと答えたわたしに、「で、話しとはな」と土方さんは頷いてから言葉を継いだ。

「今宵の酒席で…」

おめぇがおなごだと、試衛館の皆に告げようと思う。

「…!…え?」

「俺と近藤さん、総司の僅か三名では肝心な時に全く間に合わん頭数だ」

局長、副長として多忙。沖田さんも隊務の傍ら剣術師範もしている。わたしも個人行動が増え、目が行き届かない、と説明してくれた。

「わたしはまだ…そんなに頼り無いですか」

「頼り無ぇとは言わん。ただ、例えば斬り合いで着物を裂かれたとしよう」

「あ…」

「事態を繕える者が必要な場面はまだ多いだろう」

確かにそうだ。

「はぁあ~…」

思わず大きな溜め息が出た。

「情けない。結局誰かに頼らないと、助けて貰わないと生きていけないのか…」

言葉と一緒に悔し涙がぽろりと零れた。
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