BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
「この仕事に就いた動機はと問われれば、私もほかの人と少し違うように思います」

 思い返されるのは過去。
 月穂は自分自身、祥真と同じような気持ちでいた。

 なにかと周りの人と自分を比べることが多かった。

「……けれど、それぞれに居場所や立場があり、どれも必要なことで……。誰かと同じである必要はないんじゃないですか?」

 当時の月穂は、ある人のおかげでいつしかそう気づき、ようやく俯くのをやめることができたのだ。

 祥真は珍しく興味深そうに尋ねる。

「それって、どんな動機?」

 彼はさっきまでどこか虚ろな瞳だったのに、すっかりいつもの引き締まった表情に変わった。
 出会ったときにも感じたことだが、祥真の真っ直ぐな視線には人を惹き込む力がある。

「珍しくもない話ですよ」

 同時に、ごく自然に本音を吐かせられる。
 けれどもそれは、月穂にとっては珍しいことだった。

「私は小学生の頃から、すでに引っ込み思案なタイプだったんですが……。おどおどしている私を、男子はからかって楽しんでたみたいで。勇気を出して自分の思いを口にしても、笑われるだけで伝わることはなくて」

 大人しい性格の月穂からすれば、ちょっとやんちゃな男子はものすごく乱暴にも思えたりして、常に怯えて生活していた。
 そして、そういうことすらも親に話せずにいた。

「そういうこともあって、自分の気持ちを表現するのが怖くなってから。家でも学校でもうまくコミュニケーションが取れず……八方塞がりになっていたとき、スクールカウンセラーの先生に救われたんです」

 その頃、唯一本音を晒せる人だった。
 裏を返せば、そのスクールカウンセラー以外には自分の思いを伝えることが困難だったということ。
 そしてそれは今でも本質は変わっていなくて、月穂は心の内を晒すことが苦手だった。

 そんな月穂にとって、自分を支えてくれたカウンセラーは今でも特別な人のまま。
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