今宵は遣らずの雨

「……あやつからは口を吸われたか?」

初音はかぶりを強く振った。

そういえば、湧玄は一度も初音と唇を合わせることはなかった。

「そうか……岡場所の女にすら、相手にされてなかった、ということだな」

兵部少輔はうれしそうにそう云うと、初音のくちびるにさらに深く口づけた。

春を売る女は客には口だけは吸わせない、とはいうが、気に入った客は別である。
むしろ、気に入りの客である(あかし)として口を吸わせて、その客を喜ばせているくらいだ。

そして、そのままそのくちびるを、初音の全身へくまなく這わせることになった。

やはり、初音は兵部少輔であれば、その流れに身も心も委ねられ、知らぬ間に可愛いらしい喘ぎ声を漏らしている。

湧玄には舌を噛み切ろうとしてまで守ったというのに、兵部少輔にはあっさり脚を開いて、じっとりと潤わせた内側に、突き立てられた熱を受け入れている。

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