今宵は遣らずの雨
側仕えの女中たちが直ちに動いた。
何事か、と縁の向こうに中間(武家に仕える者)たちが駆けつけ、事情を解した者がすぐさま藩主の側用人の元へ走る。
あっという間に、御屋敷中が嵐のようなけたたましい騒ぎに陥っていた。
初音は寿姫を見た。
血の気の引いた顔で、口を真一文字に結び、ぶるぶるがたがたと震えていた。
初音は寿姫の元へ行き、そっと抱きしめた。
「……なにゆえ、ご自分の御湯呑みに毒を入れられたか」
できるだけ、やさしい声で尋ねる。
……寿姫は初音の湯呑み茶碗ではなく、自分のそれに毒を盛っていた。