今宵は遣らずの雨

「……わらわは……寿は……いらぬ子でござりまする」

寿姫の大きな瞳から、ぽろぽろぽろ…と大粒の涙が溢れ出た。

「母上からも……父上からも……(うと)んじられて……おりまする」

言葉の狭間に、えっ…えっ…えっ…と嗚咽がこぼれる。

「寿なぞは……おらぬ……方が……生まれてこぬ……方が……」


初音は思わず、寿姫をもっと強く、抱きしめられずにはいられなかった。

< 257 / 297 >

この作品をシェア

pagetop