今宵は遣らずの雨

無論、兵部少輔には、なにも云っていない。

初音は一息ついてから、その部屋の(ふすま)をすーっと開けた。


中にいた芳栄の方付きの側仕(そばづか)えの者たちが、初音の顔を見て、ぎょっとする。

「心配召されるな。伏しておられる奥方様に、なにができましょうぞ」

初音はそう云って、人払いをした。


……二人きりで話をしたかったのだ。

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