今宵は遣らずの雨
「奥方様、お初にお目にかかりまする。
……初音にて、ござりまする」
初音は、伏したままつゆも動かぬ芳栄の方へ、指をついて平伏した。
「此度は、そなたさまにお願いがあって、参った次第でござりまする」
芳栄の方は天井を見たままだ。
「そなたさまの寿姫どののことでござりまする」
初音は、気にも留めず続ける。
「どうか……わたくしめに……
寿姫どのを、お預けくださりませぬか」
初音は、その額を畳の上に擦りつけるくらい深く、身を折った。