今宵は遣らずの雨
何度も一つになって目合ったあと、
明け方、木戸番が界隈の木戸を開ける頃、民部は小夜里の家の裏口からそっと出て行った。
小夜里は竈のある土間で、乾いた着物を身につけ、大小の刀を腰に手挟んだ民部の後ろ姿を見送った。
雨はすっかり上がっていた。
辺り一面に立ち込めた薄墨色の靄が、たちまちのうちに小夜里の目から民部を隠した。
民部は城下とは反対の方角へ足を向けた。
当然、廻り道となる。
小夜里に界隈への障りがないように、
そして、家人には川向こうへ行っていたように、
見せるためである。