今宵は遣らずの雨

「旦那様っ、なにをしておいでかっ、お気をお鎮めくだされっ」

間一髪のところで、中間(ちゅうげん)(武家に仕える者)たちによって取り押さえられ、忠之進の手から太刀はもぎ取られた。

「放せっ、無礼者っ、放さんかっ」

手足をばたつかせた、忠之進の金切り声が、辺りにしばらく響いた。

理由がどうであれ、白昼に実の妹に手を掛けたとなれば、いかような沙汰が藩から下されるやも知れぬ。

跡継ぎの長子がまだ生まれぬこの家で、主人が蟄居隠居(ちっきょいんきょ)にでもなれば、たちまち御家(おいえ)取り潰しの憂き目に遭ってしまう。

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